A君は天狗ではなかった

毎日雨がよく降る。教室に来た幼稚園のA君は一本歯の下駄を履いて来た。天狗が履いているあれだ。雨の芝生はヒョイヒョイと実にスムース歩いていたが、濡れたテラスに上がったとたん右足がスーと滑りマット体操のような超大股になった。その時初めて自分は天狗ではないと自覚した。ひっとしたら鎮守の杜のクスノキのてっぺんから天狗も見ていたかもしれない。